ふるさと 3.ふるさと





 外はすっかり、夜の闇と静けさに包まれていた。



 携帯を凝視して、何分経っただろう。
 浮かび上がっている”証拠”を目の当たりにして、私は目を凝らさずにはいられない。

 家に帰る前に、立ち寄ったときも、夕飯の後に見に行ったときも、新一の家の灯りは消えたままだった。
 そして。
 音消にしてあった携帯には、一度だけの着信履歴。
 それはたぶん、私がひとりではぐれてすぐの頃の時間・・。

 そうか・・。
 行っちゃったんだ・・。

 そう思ったけれど、不思議と哀しみや怒りは起こらなかった。
 刻まれた証拠が、帰ってくる証拠。
 そう思えたからかもしれない。

 帰り道、夕暮れに見た虹を想い出す。
 あの虹を渡って、新一のところへ行けたらなら、いいのに------。



 ベットの上に、仰向けになる。
 「もう・・。明日は学校なのに。また休む気ね、これは・・・・・・」
 でも・・そうね。
 「ノートくらい、とっておくから、安心してね・・」
 ふふっと笑って、独りごちた。

 明日になれば、逢える?
 後悔した分、もっと素直になろうって、決めたから・・・・・・。

 帰ってきたら、なんて言おう?
 「勝手に行ってしまって、ごめんなさい」

 何に悩んでいたかなんて、気取られる隙も無いくらい。
 顔を見たら一番にそう言って、何もかも洗い流してしまいたかった。



 翌日。
 案の定、新一は学校には姿を現さず、気にはなったけれど、部活を休むわけにも行かなくて、終わって帰途につく頃には、もうすぐ夕方の6時になろうとしていた。
 家に帰る途中、昨日と同じように新一の家に立ち寄ってみたけれど、やっぱり灯りは消えたまま。
 その家の前にしばらくの間、経ったままでいた。
 ほんの少し、緊張してもいた。
 謝ろうと思っているからだけじゃない。
 もし、新一から連絡があったら。
 しようと思う、ことがあった------。



 家には鍵がかかっていた。
 そう言えば、今日はお父さんは遅くなると言っていた・・。
 ドアを開けてなかに入ろうとしたその時------。



 ------トゥルル、トゥルル、トゥルル・・・・・・。

 突然の呼び出し音に、私は鞄をその場に投げ出すようにして電話に出る。

 「・・蘭?」

 トクン!

 鼓動が、跳ね上がった。
 いつものことながら。
 不意打ちは、心臓に悪いんだから・・・・・・。

 「新一・・」
 心なしか、声が震える。
 「どうしたんだよ、こないだは・・。急にいなくなるから、心配したんだぞ」
 答える彼の声は、ちょっと怒っているようだった。
 だけど、どうしてだろう?
 ほんの少し、意地を張ってしまうのは。
 「そういう割には、相変わらず忙しいみたいだけど・・」
 ああ、どうして、こう・・思っていることと違うことを、口にしてしまうんだろう?
 「・・っ。そ、それは・・」
 ごめん。また困らせてしまったね。
 「・・昨日はごめんなさい、急に帰ったりして。・・もう、帰ってこられるの?」
 素直にならなくては・・といったん決めたら。少し心が軽くなった様な気がした。
 「ああ。今から帰るよ」
 洗い流そう・・と思っていたのに。
 やっぱりいつもと同じで、不安を洗い流してもらっているのは私だった。
 「帰る」
 その一言だけで、驚くほどに、心が浮き立つ。
 でも・・。
 今日は、素直になろうって、心に決めたのだから。
 びっくりするかもしれない。すぐに反対されるだろう。
 だけど。

 「ねぇ・・。今いるのって、都内なの?」
 何気なく、訊いてみる。
 「そうだけど・・何?」
 「・・じゃあ、私、今から新一のところに行く」
 「・・・・・・」
 ほんの少しの、沈黙。
 びっくりした?怒った・・?
 「・・な・・何考えてんだよ?心配しなくたって大丈夫だよ。ほんとに今から帰るからさ」
 やっぱり。そういうと思った。
 「どのくらいで帰ってくるの?」
 「どのくらいって・・。2時間もありゃ、着くよ」
 「そう・・2時間あれば着くのね、じゃあ、やっぱり行く!」
 「無理だって!オメー、自分がどれくらい方向音痴かわかってんのか?」
 わかってる。わかってるわよ。それくらい。言われなくたって・・。
 「・・それでも・・行きたいの。ね・・たまには、私に行かせてよ。いつも、いつも、新一が私のところに来てくれる・・私はただ、何もできずに待っているだけで・・。だから・・」
 やだ・・。話していたら。泣きそうになってしまう。
 涙をやっとの思いで引っ込めると、電話の向こうで新一が笑ったような気がした。
 しばらくして、一言だけ。

 「・・待ってる」

 その言葉に。
 嬉しくて、こらえていた涙がとうとうこぼれ落ちた。
 嬉しくて・・。
 やっぱり、泣いてしまったね。

 私はお父さんに書き置きを残すと、とるものもとりあえず、制服のままで家を飛び出した。



 ずっとずっと、もどかしかった。
 いつも、ただ待つことしかできない自分が、歯がゆくて、しかたなかったから------。



 初めて降り立つ小さな駅の、改札の向こうに、
 目指すその人の姿をを見つけて、私は小さく微笑んだ。

 あなたに逢えるのなら。
 あなたが待っていてくれるのなら。
 私は、どこにだって飛んでいける。

 こみ上げる想いとともに。

 ためらいもせず、その胸に飛び込んだ。



 いつでも私を受け止めてくれる、
 私だけの”ふるさと”に------。






tcn...

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