ふるさと 番外編





│夕暮れにかかる虹│


 街には次第に夕闇が迫っていた。
 人ごみに紛れて歩きながら、
 彼女は、
 今ごろは、きっといちばん大切な人に、まっすぐな想いを向けているだろう・・。
 そう思うと、快斗もまた、同じように、いちばん大切な人の顔を浮かべずにはいられなかった。



 交差点の近くまで来たとき、視線の先にいる人影に目を留めた。
 
 ------青子だ。

 買い物袋を下げてゆっくりとした足取りで歩く彼女に、無理に追いつこうとはしなかった。

 青子は交差点で立ち止まる。
 自然と、後ろから快斗が追いついた。

 快斗に気がついた青子がふわっと微笑んで声をかけた。
 「快斗!お出かけしてたの?」
 「・・ちょっとな。青子は夕飯の買出し?」
 「うん、そう。今日はねえ・・」
 楽しそうに話し始める青子を見ているだけで、幸せな想いがした。
 そうこうしているうちに、信号が青に変わった。

 「青子、それ、重いだろ?持ってやるよ」
 「えっ。いいよお、大丈夫だから・・」
 「いーから」
 そう言うと、快斗はさっと手早く買い物袋をとった。
 「どうしたのお?急に・・。でもありがとう」
 覗きこむようにして、青子は快斗に笑いかけた。
 その笑顔に鼓動がはねて。
 悟られたくないばかりにそっぽを向いた。
 快斗が照れているとは知らず、青子ははしゃいだ声を出す。
 「見て見て、快斗っ。虹だよ。虹が架かってる!」
 夕暮れに架かる虹のコントラストは得も言われず美しかった。
 「きれいだねー・・」
 うっとりと青子が声をあげた。
 「ほんとだな・・」
 快斗もしばし、われを忘れるように見上げていた。
 
 青子とふたりで・・・・・・。

 ふたりでなら、あの虹の向こうまでいけそうな気がした。

 買い物袋を左手に持ち替えると、右手で、まだ空を見ている青子の左手をそっとつないだ。
 青子はぱっと振り返ったが、何も言わず、また微笑んだ。
 
 手のぬくもりで、幸せに気づくのは、きっとみんな、同じこと------。





│銀河鉄道に瞬く星│



 小さな駅の灯りだけが、周囲を照らしていた。
 静かすぎる夜は怖い。
 だけど、ふたりなら、怖くない。
 
 時計の針は、夜の9時をさしていた。

 あれから・・・・・・。

 メモ書きだけ残して、制服のままで飛び出していった蘭は、新一と再会したあと、ふたりで外で遅い夕食をとった。

 駅には、人がまばらだった。
 もうすぐやってくる電車をふたりで待ちながら、ベンチに座って話していた。
 夜はさすがに少し冷えて。
 それでもふたりでぴたりと体を寄せ合うだけで。
 こころまでぬくもりが伝わっていく。
 お互いのぬくもりで、お互いを包み込んでいた。



 
 電車はことさらに音を響かせて、夜の街を光で切り裂くように走っていく。
 駅にいたときと同じで、電車の中も人は少ない。
 
 「ほんとに大丈夫なのか?今からだと、家に着くの、11時過ぎるぞ・・」
 一緒に夕食をとっているときから、蘭は何度となく大丈夫だと自分に言い聞かせるようにして話していた。
 けれども、さすがにメモ書きだけで、了承も得ずにこんなに遅くなってしまってよかったのだろうか?
 蘭が行きたいと言ってくれた時、戸惑ったものの、嬉しさがこみ上げて、待つと答えたけれど、
 ほんとうによかったのか?
 知らない道を、蘭はどんな想いで・・。
 新一は、逢えたことはもちろん嬉しいものの、
 「待つ」と安易に言ってしまったばかりに、こんなに蘭を遅く帰らせることになってしまったことに、多少困惑していた。

 新一の心配そうな声に、蘭はきれいな笑顔で答えた。
 「大丈夫・・」
 「・・大丈夫って・・」
 「・・いいの。今日は・・」
 そう言ってから、蘭は少し顔をそむけた。
 「・・・・・・?」
 「・・今日は・・待っててくれて、ありがとう・・」
 顔をそむけたまま、静かに蘭は言った。
 「蘭・・・・・・」
 そんなこと、言わなくても・・。
 オレはいつも、待たせてばかりなのに・・。
 そう思うと、新一は胸が痛んだ。

 振り向いた蘭の瞳が潤んでいた。
 「逢いたかったから・・。今日はどうしても、私から逢いに行きたかったから・・。待っててくれて、嬉しかった・・。ほんとに・・」
 幸せそうに、
 切なそうに、
 微笑みながら、かみしめるように蘭は言った。



 「見て・・新一。すごいね・・。遠くの街の灯りがキラキラしてて・・。星屑みたいに見える。・・なんだか・・銀河鉄道みたい・・」
 街の灯りはまるで瞬く星のように美しく、このままふたりを乗せて宇宙へと旅立ってしまいそうだ。
 「ほんとに・・このままどっか遠くに行っちまいそうだな・・」
 新一は、しばらく吸い込まれそうな想いで外を眺めていた。
 「・・新一」
 「え?」
 蘭は少し頬を赤く染めながら、小さく言った。
 「・・手・・。握っててもいい?」
 新一は言葉では返さず、静かに、ゆっくりと蘭の手を包み込んだ。

 ああ・・・・・・。
 そう。
 このぬくもり。
 ずっと探していた、ずっと大切にしてきた・・。

 手のぬくもりで、幸せに気づくのは、きっとみんな、同じこと------。






FIN.






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