幸せの花束 2.トップシークレット





 東京駅近くの喫茶店の片隅に、なにやら浮かない顔をして向き合っている女の子3人の姿があった。

 「・・そう・・。奇遇というか、なんと言うか・・。みんなして、タイミング逃がしてしもてんなあ・・」
 ポツリとこぼしたのは和葉だった。

 意地を張ってしまったことを後悔した和葉は、どうするべきかをずっと悩んでいたが、結局たどり着いたのは、まだ間に合うかもしれないという望みだった。
 そんなわずかな希望にかけて、平次の後を追うようにして上京してきた和葉だったが、平次の居場所を探して会いに行くこともできず、連絡を取り合って蘭と青子とおちあうことになった。
 いわばこれは、相手には秘密の、女の子たちだけの話し合い・・もとい。
 同じ悩みを抱えているもの同士の慰め合いというべきか、はたまた励まし合いというべきか・・。

 それぞれが注文した飲み物を口にしつつ、どうも重い空気から抜け切れずにいたが、ややあって和葉は口を開いた。
 「・・けど・・いちばんようわからへんのは、工藤くんやね・・」
 「えっ・・。し、新一が?・・どうして?」
 どもりながら、蘭は不思議そうな顔をした。
 「せやかて・・。アタシや青子ちゃんの場合はともかく、工藤くんは、蘭ちゃんの気持ち、知ってるんやろ?」
 「あ・・そういえば、そうだよね?」
 今となっては、和葉も青子も、新一がコナンであったことを知ってしまっている。
 それだからこそ、なぜ彼は未だに蘭に意思を示していないのだろうと、不思議でならなかった。
 あからさまに気持ちを伝えたとは言いがたい自分たちはともかくとして・・。
 「そうだよ、蘭ちゃん・・。新一くんだって、コナンくんだったときに、好きって言ってくれたんでしょう?だったら・・」
 「うん・・でも、結局今も何にもいってくれないってことは・・」
 蘭は、おずおずと言葉を並べる。
 そして、そこまで言いかけたところで、慌てて青子は口をはさんだ。
 「待って、蘭ちゃん!まさか、新一くんが、心変わりしたとか、思ってないよね?」
 「あ・・うん。それは・・でも、普通に笑ってしゃべってると、つい、別にこのままでもいいのかなあって、決心がぐらつくの。新一も、そう思ってるから、あえて口にしないのかなって・・」
 そこまで話して、蘭はアイスコーヒーを一口飲んだ。
 「ああ・・そうやね、それはアタシも思うわ・・。別に好きとか何とか言わんでも、そばにいてくれるんやったらそれでもええんかなて思てしまう・・。幼なじみのあかんとこやね、それは」
 「うん・・ずうっとそういうのに慣れてきてて、今さら好きって言って、もしうまくいっても、それでどうなるのか、あんまり想像できないって言うのがあるんだよね・・」
 うんうんと、和葉と青子は頷いて話した。
 幼なじみで、気がつけば一緒にいて、それがごく普通で。
 確かに誰より好きだけれど、幼なじみから彼氏彼女になるというのは、どういうことなのだろう?
 彼女たちにも、いまいちつかみきれていないところだった。
 ただしここでも、和葉と青子は、かなり極端な形で"離れて"いたことになる蘭が、何かしら自分たちとは違う考えを見せてくれるのではないかという思いから、蘭を仰いだ。
 そんな二人の様子に、蘭は多少戸惑いつつも口を開いた。
 「やだ・・ふたりとも。私だって・・何気ない毎日が幸せで・・だから、それを壊したくなくて失敗しちゃったんだもの。でも・・だったら、私がいちばん情けないよね」
 「ら・・蘭ちゃん?」
 和葉と青子は、突然トーンダウンした蘭に驚いて問い掛けた。
 「全然・・生かせてないなって思って。新一と離れていた間・・ほんとにつらかったけど、その分新一への想いが深くなったのは事実なの。なのに・・結局、私ってば、まだ宙ぶらりんなところでうろうろしてるんだなって・・」
 「蘭ちゃん・・」
 思わず、和葉と青子は言葉に詰まった。
 


 どうしていつも、怖がってばかりなのだろう?
 心の中ではいつでも、淡い期待を抱いたままでいるのに。
 素直になれないままに、あやふやな関係がつらいと感じてしまうのは、なんだか身勝手にさえ思えてくる。
 ただ、自分の勇気が足りないだけなのに、先へ進むことを、自分から拒んでいるようで・・。



 「ただね・・今、こうやって和葉ちゃんや青子ちゃんと話してて、すごく思ったんだけど・・。さっき、私、今まで経験したことを生かせてない・・って、言ったでしょう?でも、今考えると、あのころはどうしようもなかったことでも、今ならできることがあるの」
 「今やったら・・できることって・・?」
 瞳に明るさを取り戻して、しっかりと話し始めた蘭に、和葉は真剣に問い掛けた。
 「あのころ・・新一と離れていたころは、一方的に連絡をくれるだけで、私から新一に会いに行くっていうことはできなかったけど、想いを伝えることなら・・向こうが言ってくれないからって待ったままにならなくても・・勇気をもって・・ほんとに好きなら、やっぱり自分から伝えなきゃいけない・・そう思って。想いを伝えることは、私からでもできることだから・・」



 自分のことを、いちばん情けないといった蘭。
 けれど、この言葉を聞いて、やっぱり蘭はとても強い女の子だと、和葉と青子は感じた。
 
 

 そう・・。
 私たちは、お姫さまなんかじゃない。
 ただ、待っているだけじゃなく。
 
 つらいとき、助けられるほうが助けるように。
 支えるように。



 「そうやね!待ってるばっかりやったら、あかんよね。なんか・・こう、勇気出てきた・・!」
 「うん・・!青子も!それにね・・なんか、思うんだ。もしもうまくいっても、そうでなくても、変に変わることなんてないんだよね?」
 「青子ちゃん・・」
 青子の言葉に、また女の子3人は笑顔を深くした。
 
 どうして、変わらなくてはいけないと思っていたのだろう?
 いつものふたりでいればいい。
 無理に変わる必要なんて、きっとないのに。
 先のことを考えるより、今できること・・。

 それは紛れもなく、
 あなたへの、まっすぐな想いを伝えること------。

 あなたを好きでいる自分が、いとおしい。
 あなたを好きになれた自分が、嬉しいから・・・・・・。

 

 3人はそっと手を重ね合わせる。
 「それじゃあ、約束ね」
 「うん!」
 「もちろんや」



 きっとあなたにこの想いを伝えよう。
 私を幸せにするのはいつもあなただから。
 あなにも、私から、

 幸せの花束を届けましょう------。






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