graduation


 さいごに逢った春を覚えている
 あれからいくつもの季節が過ぎたけれど
 いつもどこかで
 この胸の奥にはもう
 だれも住むことがない

 ずっと そんな気がしていた

 どれだけ記憶がかすんでも
 それでも
 あの人がずっと守っている場所がある

 そう…思っていた

 逢いたくて走った冬の街
 涙零すことすらできなかった
 あの 遠く白い夏は消せない
 途切れた約束に蹲っても
 あの人を忘れられなかった

 子どものように膝を抱え
 海の底眠り続けていたこころに
 あなたが灯した あたたかなひかり

 出逢って みつめて
 あふれだす
 時を止めて忘れていた
 幸福な気持ちに
 静かに涙が落ちた
  
 そしてまた 春が訪れる
 わたしの手のひらに舞い落ちた
 桜の花ひとひら
 
 あの 切なくてきらめいていた季節
 忘れはしないけれど
 今 わたしは隣を歩くあなたと微笑みあえるから

 遠い街にいるあの人へ
 空を見上げて 伝えよう

 ありがとう
 やっと… 歩き出せるよ





(write 2007/03/22)