ぬくもり




 目の前で奪われてしまった、プロミネンスの力。
 耳に痛いほどこだまし続ける、叫び。


 紋章の消えたルーチェが、視界に入る。

 服の裾を少し握り締めるようにして、背中にそっと寄り添った。
 その瞬間、ほんのわずかにシェイドのからだが震えたような気がした。

 握り締めた手が、震える。
 何かを自分も、こらえている。

 「…守れなかった…。ずっと…ずっと…」
 ―守り続けていたのに。

 低い、ささやきの混じるようなちいさな声が、ぽとりと地に落ちて、われて消える。

 彼の握り締めたこぶしが、胸に痛い。

 「そんなこと、ない。シェイドはずっと、あたしたちを守ってくれてたよ。ずっと」
 何も知らずにいた。
 だけど、何も知らないうちから、ずっと守っていた。

 無言しか返してはくれない相手に、ファインはひどく戸惑いながら、それでもこみ上げるものを押さえらなれなかった。

 城の誰にも優しく、国を支えて家族を守り。
 完璧なまでのプリンス。
 だけど。
 だけど。

 「…どうして…」
 「…え…」
 「…どうして、いつも。
 どうして何も、いってくれないの…?」

 彼には彼の、胸のうちに決めたことがあるはずだった。
 だからすべてを、ひとりで負う。
 それでも、声を上げずにはいられなかった。

 「…あた、し…」
 言葉を飲み込んで、ファインは瞳を揺らした。
 今、唐突に、羞恥にほほが染まる。

 「あたし…や、…みんな、いるよ…。
 だから…。
 全部を、背負わないで…。
 もっと、聞きたいよ…。知りたいよ…」


 ――そう願うことは。だめ、なの………?―

 「…っ…」
 ふいにせりあがるものを飲み下しながら、ファインはきゅうと目を強く瞑った。


 どうしようもない現実が、待っている。
 だけどひとりで、がんばらないで。
 ひとりじゃ、ないから。

 「…泣くな」
 「泣いてないよ」

 「お前に泣かれたら…困る、から」

 呟きにはっとなっていちど顔を上げても、自分よりもずっと背丈が高いひとがいるだけで、ファインはシェイドの顔をうかがい知ることは出来ない。
 言葉に応えるように、もういちど裾を握り締めながら、寄り添った。
 ほほを背中に、押し付ける。


 「…シェイド…」

 たったいちど、偽りない真実の名を呼んで目を閉じたら、また、少し揺れたような気がした。
 背中に添って、ぎゅっと、離れずにいる。

 「…あたたかいな…」


 優しさと温かみがともった声が耳に届いて、今度こそ、涙ぐみそうになった。

 ―…ひとりじゃない。
 どうしても。
 ただそれだけを、あなたに伝えたかったんだ…――。





FIN.






めちゃめちゃ書きなぐりだし、ファインちゃんしおらしすぎだし(がぼん)。すすす、すみません〜><;;
シェイドにいいたいことを、代弁していただきまし…た…(爆)。ていうか、ブラレイでやるべきシチュなんじゃ…(…)
(2005/09/25)