君待つと




 お城の外でぼんやりと空を眺めているうちに、どれほどの時間が経ったのか、よくわからない。
 …ただ、待ち人は、まだ来ない。それだけが事実。
 今日は、約束してあったのに…。

 ぶらぶらとしていたつもりが、いつの間にかそわそわしている自分に気がついて、ファインははた、と足を止めた。
 と、パタパタと人の駆け寄ってくる気配がする。

 「ファイン様!」
 「ファイン〜」

 振り返ると、キャメロットとレインが駆けてきていた。

 「ファインったら、もうお部屋にいないんだもの」
 そういって笑うと、レインはおもむろにファインの被っている帽子に手をかけた。
 「…な、なに?」
 「ちょっと、斜めになってるわよ?シェイド様に、笑われてしまうわ」
 いわれて、ファインはぱっと顔を赤らめた。
 その様子にキャメロットはそっと苦笑していたのだけれど、彼女はそれに気づく余裕など今はない。
 「うん。ありがとう、レイン」
 「よろしいですか、ファイン様。プリンスとのお出かけですよ。身だしなみをきちんとなさらなければ…」
 と、ここでキャメロットの訓示がはじまり、ふたりは少々肩をすくめたまま、とりあえずはおとなしく聞いていたものの、一方でファインの耳はひとつのを音を探していた。

 そのうち、待ちかねていたその音が聴こえてきて、まだ続いているキャメロットの話を振り切るように、ファインがいちばんにぱっと振り返った。
 みると、レジーナに騎乗してやってきたシェイドが、その身のこなしも軽く降り立ったところだった。
 レインとキャメロットは、ずいぶん前から部屋を出て待ちわびていたファインのこと、顔をほころばせてよろこぶのだろうと予想していたものの、それは軽く裏切られて、ファインは少し背伸びするようにしてかかとを上げると腰に手を当てて言い募った。

 「シェイド、おそーい!」

 ある意味怖いもの知らずとはこのことか、と背後のふたりは目を丸くし、少しばかり拗ねたような声と顔を向けられたシェイドは一瞬驚いたように目を瞬いたものの、すぐさま表情を引っ込めた。
 「オレはべつに遅れていない。お前が待ちすぎただけじゃないのか?」
 「………」
 もう…と、減らず口の少年に小さくほほを膨らませたファインだったけれど、じぃ…と綺麗な瞳で見つめられて、気がつくとぼうっと顔を赤らめてしまう。
 「…あ、…えっと、…きょ、今日は来てくれてありがとう。れ、レジーナも久しぶり!」
 どもって声を上ずらせながら、見つめてくるその視線からさっと逃げてレジーナに駆け寄る姿に、見送り組みは密かに嘆息していて、それと気づいたシェイドはあさっての方向に一瞬視線を飛ばした。

 レジーナを優しく撫でてやると心地よさそうにないてくれるので、嬉しくてじゃれ付いていたファインは、ふいに訪れた感触に飛び上がりそうになった。
 「…ひゃっ…」
 そっと腰に手を添えて抱き上げると、そのまま静かにレジーナに乗せてくれるシェイドのしぐさは、初めてではないはずなのだけれど、そのたびこうしてファインは飛び上がる。
 「いちいち飛び上がりすぎだ。危ないぞ」
 「…う…。ごめん…」
 やれやれ、という風情の声に、ファインは少しばかりしゅんとなったけれど、続いて前に騎乗したシェイドが促すから、そっと腰に手を回してつかまった。

 「ふたりとも、いってらっしゃい。お散歩から帰ってきたら、一緒にお茶しましょうね」
 レインは楽しそうに手をひらひらさせている。
 「シェイド様。今日もファイン様をどうぞよろしくお願いいたします。おふたりとも、くれぐれもお気をつけていってらっしゃいまし」
 「ああ」

 相変わらず心配性のキャメロットを安心させるように、シェイドは頷きつつ短く答えた。


***


 心地よい風に吹かれながら、のんびりと森の散策をしている…そのつもりでも、背中にピッタリと添って腰に手を回しているのは、何度目かになってもまだ慣れず、ファインはときどき深く息を吸い込んで、飛び出しそうな心臓を何とか沈めていた。
 こんなにドキドキ、してるのに。
 いつもいつも、彼はまるで平気に見えて。
 「…なんだか、なあ…」
 「どうした?」
 ぽつり、と零しただけの呟きを聞き取られて、ファインはぶんぶんと首を振った。
 「ううん、な、なんでもないっ」
 えへへ。と、ちょっとごまかすように笑うことしかできないけれど、一緒にいられて嬉しくてしあわせ。
 その気持ちがふいに、あふれてくるようだった。

 「レジーナに乗せてくれてありがとう。
 あのね、今度、…気球に一緒に乗ろうよ」
 身を乗り出しても顔なんてよく見えないけれど、少しだけそうしてみる。あまり続けていたら、たぶん危ないとまたたしなめられてしまうのだろうけれど。
 「…気球…」
 シェイドはただ、それをゆっくりと反芻しただけだったけれど。
 イエスともノーとも言わないときの答えは、だんだんわかるようになっていた。

 けれど。

 「レインやブライトも一緒だと、楽しそう〜」

 無邪気に笑ってそういうファインの言葉を聞いて、ふう…とひとつため息を漏らすシェイドに、彼女は気づかないまま…。





FIN.






ふたご姫SSはほとんど書き殴りばかりで計画性がなく…す、すみません(汗)。
27話のファインちゃんのせりふが…デートに遅刻した彼氏にいってるみたいで(妄想フィルター百万枚)
ツボだったので、拝借…(笑)。
(2005/10/03)