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 まどろむたびに、なぜかぼんやりとまぶたを開く。
 それをもう何度繰り返したか、わからない。
 ただ…寝付けずにいた。

 穏やかな寝息を立てて夢のなかにいるレインを起こさないようにそっと身を起こすと、ファインはベッドを抜け出し、暗がりのまま部屋の隅にぺたんと座り込んだ。

 いつもとは違って、その幼さには少し似つかわしくないほどの複雑さを秘めた表情のまま、きゅ…と軽くくちびるを噛む。

 どう考えたって彼の行動は怪しいから。
 そう思ったから…息巻いて、「やっつけよう」なんてはりきったけれど…。


 ほう…。
 と息を深くついた。

 けれどもどうしてか、今思い浮かぶのは、あの、暗い森で、ふたりきりで歩いたときに垣間見た、いくつもの表情だった。

 最後には迷惑だなんてつらいことを口走った彼だったけれど。
 でも、ふたりきりのときは、そうではなかった。

 脳裏を駆け巡る記憶たち。


 自分が与えようとしたえさも食べていいと、そっとレジーナに教えたたしぐさ。
 しょうがないな…そんな表情で軽く息をついてこちらを見たときの瞳。
 なんだかんだ言っても、隣で歩くことを否とは言わなかった彼。
 木からまっさかさまに落ちたところを、なんともない様子で受け止めてくれたときの、力強さ。
 足にすがりついたときの、今まで見たこともないような驚いた表情。


 どれも。
 どれもが、悪いひとだなんて思えないものばかりだった。


 「…そう、だよ…」

 あのとき、思ったのに。

 悪い人なんかじゃない。きっと理由があるんだと。

 なのに…まだその理由は何一つわからないままだというのに。
 簡単に翻してしまった自分が、今、やけに恥ずかしくてたまらなかった。

 それと同時に、少しの悔しさがこみ上げる。

 「…どうして…もっと、お話できなかったんだろう…」

 レインもプーモも、あのときの彼をまったく知らない。
 自分ひとり垣間見た彼の素顔だったのに。
 それなのに、彼をろくに庇うこともせずに一緒になって悪い人と考えを翻してしまった。
 あの大切な思いでは、ずっとこの胸のなかに宝物のようにあるのに。

 それに、こだまする鋭い声。

 ―『待て…!』


 鋭くて、何かとても切羽詰ったような声だった。
 まるで…必死に何かをとどめようとするかのような…。


 あの森で。
 「どうしてプロミネンスのことを知っているのか」と問いかけた。
 一度は答えてくれなかった彼だけれど、どうしてせめて…。
 もう少し、話を聞けなかったのだろう。

 …もっと…話していたかった…。

 冷たくあしらうように見えても、暖かさを秘めていると知ったはず。

 彼のことを悪く言わないでと必死になって言い募ったミルキーのこともまた、思い出された。
 どうして彼女が底までエクリプスのことをいうのか、それはわからない。
 けれど…。


 すうっと、瞳を閉じた。
 余計なものをそぎ落とすように、深く息を吸い込む。

 そうしてストン、と心の奥に落ちてきた感情があった。


 ぎゅう、と手を握り締める。

 「…信じたい…。
 ほんとうは…信じたい…」


 ほんとうは、まだわからないことばかりなんだ。


 膝に顔を埋めていると、ふいに眠気に襲われるような気がした。

 「…エクリプス…」
 そっと声に出して、呼んでみる。

 あなたのほんとうの気持ちを知りたい。
 あなたが、どうしてあんなことをしているのか…ほんのひとかけらでもいい。

 そう、切に願ったら、わずかにまぶたが濡れた気がしたけれど。

 ―やっぱり…信じたいよ…

 その想いを深くしたら、ほんの少しの笑みが浮かんだ。





FIN.






アニメ16話を見て…エクリプス(シェイド)好きとしましては溜まらず…(汗)。
思い切り書きなぐりなので、お恥ずかしい代物ですが::
(2005/7/16)