いつかみた夢

*妄想甚だしく、遠い星の彼方なみの未来にぶっ飛んでいます(爆)。元サイズ(年齢とか)以外は苦手という方はごらんにならないほうがよろしいかと(^^ゞなんでも大丈夫、という方はよろしければどうぞ。









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 暖かな陽射しの午後。
 おひさまの国の王宮では、キャメロットやルルを始め、メイドたち数人が、いつも朗らかで明るいプリンセスを探して声を上げていた。

 「ファイン様〜、どちらにいらっしゃいますか、ファイン様!
 王様と王妃様が、お呼びでいらっしゃるというのに…」
 「朝はお部屋にいらしたのに、いつの間に出てゆかれたのかしら…」
 「この、大事なときに…」
 うちひとりがうっかりと口を滑らせたひとことに、キャメロットが思わず人差し指を口元に当てて眉を寄せた。
 「シッ…!声高に言うものではありません!」
 「も、申し訳ございません…」


 ***

 陽射しが入り込む大きな窓際に設けられたお茶の席には、国王夫妻とレイン、そして、この日おひさまの国の王宮を訪ねてきた月の国のプリンス・シェイドの姿があった。
 「…シェイド王子、申し訳ない。来られる少し前には、確かに部屋にいたというのだが…」
 「ごめんなさいね。せっかくいらしてくださったというのに…」
 トゥルース王とエルザ王妃が変わるがわる、苦笑とも取れる笑みを浮かべてシェイドにわびの言葉を口にした。
 けれども彼は、
 「いえ…」
 と普段と変わりない落ち着いたたたずまいで、ただひとこといっただけだった。
 けれどもふいに、ちょうど向かい合う位置に設けられている空席に、ほんの一瞬視線をやる。

 すぐにやってくるだろうと誰も踏んでいたものの、結局ファインが姿を見せないままお茶の時間は流れていき、その間他愛ない話をそれぞれ交わして穏やかに過ごしながらも、欠けているものを皆が実感していた。

 「…では、お父様、お母様、シェイド様」
 ティーカップを置いたレインは顔を上げて、両親の顔を見やり、そのまま視線を移した。
 す…と視線を向けるとシェイドと眼が合い、レインは数度瞬きをすると、人知れぬように頷いた。
 「わたしは、これで失礼いたしますわ」
 ゆったりと微笑むと、そのしぐさも優雅に席を立った。

 去り際、シェイドはわずかに視線を向ける。
 「…ありがとう」
 「いえ」
 レインは軽く会釈をすると、そのまま部屋を出て行った。

 プリンセスが退席し、国王夫妻と客人であるプリンスだけが残ったその場所で、それまでの落ち着いた雰囲気にも増して、シェイドは国王夫妻にすっと真摯な表情を向けた。

 「本日は、王様と王妃様にお話申し上げたいことがあり、お伺いいたしました」

 その言葉を受けると、トゥルースとエルザはすでに承知していたという風に暖かなまなざしで彼に微笑み、先を促すように頷いたのだった。


***


 「…ファイン…きっと、お庭のどこかにいるんだわ…」
 お茶の席を去ったレインはそう呟きながら、庭園を歩いていた。

 先だってのパーティの席で、レインは詳しいことは知らないものの、シェイドとファインはちいさな…些細なけんかをしてしまったらしい。
 すでに長い付き合いである。
 こと、あの二人だからこそ分かり合う、互いの良いところとそうでないところもたくさんあって、時折つまらないことでファインが拗ねてしまうことだってあった。次に会うことがあれば、素直に話してまたもとの鞘に戻る。
 今回も、そんなことでしかない。
 けれども、とレインは思う。
 おそらく、今日シェイドがおひさまの国のお城に訪れた理由を、彼女は彼女なりに、おぼろげながらでも理解しているのではないか。
 だからこそ、上手く顔もあわせられずに出て行ってしまったのに違いない。
 大事なとき、だからだ。

 「…あ…っ…」
 散策するように庭を歩き回っていたレインは、いつか、この広い庭園のなかでも特に良く訪れる一隅にたどり着いていたことに気づいて、そっと笑った。
 そうして、瞳を大きく見開く。
 ふたごだから。
 そんな理由ではないかもしれないけれど、何か呼び合うものがあるのかもしれない。
 近づくと、レインは感嘆の声を上げた。

 「…すごいわ…。こんなにも綺麗な花が咲くなんて」
 …もう長い間、つぼみのままで開かなかったというのに。

 庭の一隅にある花壇には、ファインがドリームシードから育てている花が植えられていた。
 なかなか花を開かせないままだったけれど、ファインが毎日欠かさず水をやり、丁寧に育てていたこの花は、とうとう今日大きな花を咲かせたのだ。
 ずっと幼い頃にもドリームシードから育てたことがあったけれど、これはその頃より深い想いによって育ったに違いなかった。

 まるで今日の日のことを知っていて、喜んでいるかのように見える花に、レインはしみじみと語りかけた。
 「ありがとう。あなたも、知っているのね…きっと…そうね。きっと…」


***


 数歩進んではまた戻り、うろうろと所在なさげに歩きながら、いつもとは違ったうつむき加減のファインがため息を漏らしていた。
 「どうしてこうなっちゃったんだろう…」
 それは、自分に向かっていった言葉。
 もういくつも年を重ねて、お年頃というのになんて子どもじみたことを、と自分でも身に染みる。
 些細な口げんかに過ぎないし、むしろ彼はべつに怒ってもいなかったし、ただ自分がちょっと拗ねてしまっただけで。
 いつもなら。
 次に会うときには笑えるはずだった。
 けれども今日は、いつものように笑って彼を迎えられない気がした。
 逢うと、自分らしくなくもじもじとしてしまうだろうし、よそよそしくしてしまうかもしれないと思ったのだ。
 それは、彼が来る、という知らせを受けたときに走った、夢みがちな予感のせいだった。

 ふるふる、と首を振る。

 「…そんなこと、ないよ、ね…」

 もっと幼い頃には、彼のことがだんだん気になって、逢っていると、話していると、なぜかいつもの自分ではない気がして、戸惑った。
 大好きなお菓子を食べ忘れてしまったり、もじもじしてしまったり、逆に必要以上にはしゃぎすぎて、呆れられてしまったり。
 でもそれは、子どもの頃だけ。
 そう思っていたのに、月日が流れても、あまり変わらないままだった。

 それなのに、そんな、夢みたいなこと。

 ほんのり、とほほが熱くなって、恥ずかしくてぺちぺち!とファインは自分のほほを叩いた。


 「…こんなところにいたのか」

 背後からのあまりに聞き知ったその声に、ファインはびくっと飛び上がった。
 思わず声まで上げそうになったけれど、辛うじてそれをこらえる。

 「…ど、どうして…っ。わかったの…」
 声が上ずって、恥ずかしくて溜まらず、ファインは声をかけてきたその人に背を向けたままになった。

 「…なんでかな」
 「………」
 いつ聴いても変わらないクールな声音と、素っ気無い返答に心なしかしぼんでゆく。
 べつに何かを期待しているわけではないはずなのに、なにか言葉にしてくれるのかも、という夢を、捨てられない。

 でも、とファインは思い返した。
 ほかの誰も…そうだ、このおひさまの国の王宮に住む人たちだって、広い庭のなか、簡単にファインを見つけられなかったのに、最初にやってきてくれた。
 それを思うと、否応無しにこの胸が高鳴ってしまう。

 見つけてくれたのだから、応えたい。
 いつもみたいに笑って。

 ファインはきゅっと手を握り締めると、ようやく口を開いた。それでもまだ、どういえばよいのかと迷い、声は上ずっている。
 「…あ、あのっ……」

 それに対して、落ち着きのある声音が響いた。
 「今日は、どうしても伝えたいことがあったから、来たんだ」

 「…………」
 ファインははっとなって、ドレスの裾を握り締めた。
 くちびるが乾いていることに、気づく。
 それでもまだ、振り向けない。

 しばらくすると、かさり、と音がして、空気が変わったような気がした。
 「………?」
 ふしぎに思って、ファインはようやく振り返る。

 「………っ!!」

 そうして、驚きでいっぱいになった瞳を、零れんばかりに瞠る。

 それは、まるで次の瞬間には目覚めてしまう夢なのではないかと思えるような光景だった。
 少しばかり距離を取ったまま、シェイドが方膝をついて礼をとっている。
 うつむき加減で前髪に隠された表情は、ファインには何一つ読み取れなかった。

 「…シェ…」
 言いかけて、名前すら十分に呼べないほどに、息が詰まった。

 やがて顔を上げたシェイドはまっすぐにファインに視線を向けている。
 そのまなざしには力強い光が満ち満ちていて、引き寄せられるようにしてしばらく見詰め合った。

 「…プリンセス・ファイン」

 改まってそう呼ぶ彼の声は、今まで聴いたもののどれより、いちばん厳かな音となって耳に届く。
 こころのどこかでいつか、夢みていたことがあった、とファインはふいに思い出した。

 
 きっと、ほかの誰も知らない表情と声音。
 その声で告げられた言葉に、ファインはこの日咲いたばかりの大輪の花にも勝るような笑顔で、彼に応えた。





FIN.






妄想暴走列車を誰か止めてください…(爆)。ほんとうに失礼いたしました;;
最後…伝わっているのかどうか…;もしご理解頂けて、「はっきり書いてくれ」というご要望があれば…
書かないこともない…です…(^^ゞ(なんてことを/爆)
(2005/9/4)