彼の本心




 パーティに招かれた各国の王族方がいくつかのちいさな輪を作るようにして、穏やかな談笑を楽しむ光景が広がっている。
 そのなかでもいちばんに目を引くのは、やはり今回のパーティを主催する国である、おひさまの国のふたりのプリンセスたちだ。

 「とてもよく似合っておられますよ。プリンセス・レイン」
 グラスを手にしている宝石の国のプリンス・ブライトが優しく微笑みかけたのへ、この日のためにと新調された美しいドレスを身にまとったレインが、ほのかにほほを染めて微笑み返した。
 「ありがとうございます。ブライト様」
 優しいまなざしをそっと、しかしずっと注がれるのが恥ずかしいのか、少しばかり伏目がちになっている。

 そんなふたりのやり取りを、同じくパーティに招かれている月の国のプリンス・シェイドが見やっていた。
 と、傍らにいたはずの妹姫、ミルキーのはしゃぐ声が、少し離れたところから聴こえてくる。

 「バブバブ〜♪」
 非常に嬉しそうに声を上げる彼女に答えて、明るい声が響いた。
 「えへへ。ほんとうに似合う?」
 「バブバブ〜」
 「ありがとう!ミルキー」

 振り返ると、こちらも美しいドレスを新調したファインが、ミルキーを前にしてお茶目にくるりと回って見せている。
 すると、ドレスがふわりとふくらんで舞うようで、より華やかに見える。

 彼女は普段とても元気で、まだ年端の行かないところからも、可愛いという表現はできても、綺麗という言葉が似つかわしいほど大人ではない。
 それでも今日の彼女は、可愛いのはもちろんのこと、ちょっぴり綺麗が勝っているようなそんな姿に映って、シェイドは人知れず、2,3度目を瞬いた。

 そんな彼の気持ちには微塵も気づかない風で、ファインは笑顔で彼の名を呼ぶ。
 「シェイド!」
 たたっと駆け寄るしぐさは、先ほどくるりと回っていたときの「綺麗」な雰囲気が夢であったかのように、いつもと同じに見えた。

 「似合う?」
 好奇心に満ちた瞳を輝かせるようにして、ファインはシェイドを覗き込んでくる。
 ちょっと大人びたしぐさを見せたいのか、ドレスの裾を持ち上げた。
 それはいかにもプリンセスらしい振る舞いだ。
 ここでシェイドはまたしても数度、目を瞬く。
 にこにこと楽しげにふたりを見ているミルキーが、視界の端に入った。

 何かを言おうとして口を開きかけ、しかしそのまま彼女を見つめ。
 答えを求めて待っているファインをまじまじと見つめたまま告げたのは。


 「綺麗なドレス、だな…」

 「………」

 数秒の間の後、裾を持っていたファインの視線がさーっとずれていき、ふわふわと上機嫌で漂っていたミルキーが落下しそうになるのを慌てて彼女自身こらえていた。


***


 「ファインったら、そんなに今からたくさん食べて…」
 ファインが食欲旺盛なのは何も今に始まったことではないけれど、それでも、とレインはシェイドに振り返りもせずに、ひたすらテーブルの上の料理に手を伸ばすファインの見事な食べっぷりに苦笑を滲ませた。
 加勢するようにしてミルキーもいつもどおりの食べっぷりを披露している。

 なんともいえない表情を浮かべてそんな彼女たちの様子を眺めているシェイドの背後から、ブライトの声がした。
 「君、ほんとうに素直じゃないなあ…」

 「…ウルサイっ…」

 ブライトのほのぼのとしながらも的確すぎる言葉に、シェイドは低く呻いた。





FIN.






ありきたりネタです…っ::
イメージぶち壊しだったり他所様と被りまくってたりしたらごめんなさいです(汗)。
(2005/7/25)