約束
もう・・だめかと思っていた。 今年の冬は、ひとりきり。 そう・・思っていた。 でも、あなたは帰ってきてくれた。 約束どおり・・。 泣いてしまって、ごめんね。 もう・・離れたくないと思った。 そばに、いたくて――――――。 イヴの日は、朝から粉雪が降っていた。 電話をかけても出ない新一。 まさか、やっぱりだめになってしまったのかと、危うく気落ちしそうになる心を静めて。 もらっている合鍵で、新一の家に行く。 「新一!約束・・忘れちゃったの?」 名前だけは強く呼んでみせたけれど、あとはどうしても弱くなってしまう。 だって、あんまり気持ちよさそうに眠っているから・・。 しょうがないんだから・・。 そう思って、リビングのソファに座っていたら、自分もいつのまにかうとうとしてしまう。 眠りに誘われかけたとき。 そっと後ろから抱きしめられた。 「おはよ」 振り向かずに、ちょっと強がってみる。 「もう、朝寝坊なんだから」 素敵な日に、しようね? ふたりで過ごす、クリスマス・・。 雪は止んだかと思うとまた降り始める。 このままだと、溶けることなく、明日はホワイトクリスマスになるかもしれない。 この時期の街は独特の華やいだ雰囲気で、心が浮き立つ。 それだって、隣にこうしてあなたがいてくれるからなのだけれど。 ちらりと横を見てみると、あなたはいつもの癖のまま。 「ねえ、新一。新一っていつもそうだけど、ポケットに手を入れるのって、ほんとうはよくないのよ?」 「わーってるよ・・。けど、癖なんだから、しょーがねーだろ?・・それにさ・・」 すっとわたしの左手をとると、ポケットの中に入れる。 「な?あたたかいだろ?」 そう言って、新一は笑った。 「・・もう・・」 口ではちょっとふくれてみせるけれど、ほんとうは嬉しい。 あたたかくて・・幸せな気持ち。 「なあ、蘭。ほしいもん、考えてきたか?」 いらないって言っているのに、新一はそう訊いてくる。 「いらないよ、そんな・・。今日、こうして一緒にいてくれるだけで、すごく嬉しいから・・」 言いながら、なんだか顔が赤くなる。 素直になるのは、難しい。 「・・明日もな」 付け足された言葉。 ほんとうに、それだけでいいよ。 一緒にいられるなら、もうそれ以上のことなんて、望んだりしない。 それが、最高のプレゼントだから。 「ちょっと、見ていくか?」 通りがかった店のショーウィンドーを指差して、新一は言った。 クリスマスのディスプレイが美しくて、思わず目を奪われていたわたしに、気がついたから。 店の窓に映る自分たちを見て、ふと微笑んだ。 来年のクリスマスも、こうしてふたりでいられるといい。 心から、そう願う。 ただ。 ただ、それだけでいい・・・・・・。 また、粉雪が降りだした。 窓に、雪が止まっていく。 すっと、新一の手がわたしの頬に触れた。 ドキン・・。 真剣で、あたたかい眼差し。 幸せな予感がして、見つめ返したあと、静かに瞼を閉じた。 思い出す・・。 ねえ、新一。 「シャッフルロマンス」を上演したとき、突然黒衣の騎士に扮して現れたあなた。 もしも・・。 もしも、あのとき・・・・・・。 今は、あのときよりもずっと、ずっと胸が高鳴っている。 新一はそっと、わたしに優しい魔法をかけた。 それは、ずっと忘れない。 大切な、プレゼント。 雪が溶けても。 来年になっても。 どうかこの魔法が解けないで。 何があっても・・変わらない約束のように。 これからのわたしたちに、つながっているように――――――。 FIN. |
2001 Xmas |