Power Of Love





『あのね、今度・・練習試合があるの。見に来て・・くれる?』
 『・・そんなに、見に来てほしけりゃな』
 『ちょっと新一!?』
 『冗談だって。絶対、行くよ』

 『ダメ!絶対、なんて言ったら・・』

 『・・ごめん』

 『もしも来られそうだったら、来てよね』
 『約束する』

 あの時。
 ごめん、
 なんて言ったのは。
 私の笑顔が、きっと少しゆがんでいたせいかもしれない------。



 「で?行っちゃったの?」
 園子はちょっと呆れたような顔をして言う。
 「・・うん。こっちに行こうとしてたところだったって、言ってたけど」
 そう言って、私は携帯を鞄にしまう。
 「それじゃ、私、着替えてくるね」

 空手部の練習試合のこの日。
 いつも通りの”お約束”を予想して、あんな約束で済ませていたら、かなしいかな、本当にそうなってしまったらしい。
 ついさっき、平謝りの電話が入ったばかりだ。

 新一は、必要とされているひと。
 事件より私のことを考えてほしいと思うときは、もちろんたくさんあるけれど。
 私を大切に想ってくれていること、わかるから。
 どんなに腹立たしくなったって、結局推理バカなところも好きだから。
 だから------。
 背中を押してしまう。



 晴れてほしいと願うときは、照る照る坊主。
 それじゃあ、
 事件が起こりませんように、と願うときは・・。
 どうすればいいのだろう------?



 「・・きゃーっ!!」
 「・・蘭っ!!」

 ------ドサッ!
 園子や部員のみんなの悲鳴にも似た叫びと、私が頽れる音が重なる。



 ------どうしよう・・・・・・!

 苦戦していた。
 何故だか、いつものように、集中できない。
 その隙をつかれてしまった。
 ほんの少し、へたりこんで。
 視線を移すと、応援してくれているみんなの顔が見えた。
 必死の形相だ。
 でも・・・・・。

 いない。

 まだ、
 来てない・・・・・・。

 ダメ!
 そんなこと、考えたら。
 余計に、集中できなくなる・・・・・・。

 しっかりしなきゃ!

 いつも、そばにいられるって、どういうことだろう?
 いつも、手をつなげる距離にいること?

 ------違う。

 たとえ見えなくても。
 離れていても。
 ”そばにいる”っていうことは・・。
 本当に大事なことは。
 もっと違う場所にある。
 だって。
 すっと、そうだったでしょう?
 声しか聴けなかったあの日々でも、いつもあなたは心のなかにいた。
 だから・・。
 だから------。



 大きくひとつ、息を吸い込む。
 静かに、瞳を閉じる。

 『・・蘭』

 ああ。
 聴こえる。

 『しっかりやれよ』

 他の誰にも聴こえなくても。
 私にだけは、聴こえる。

 あなたは、
 ”そばにいる”------!

 きっと今、新一も戦っている。
 同じ時、同じ瞬間に、私達は------。

 私は、あなたを想うたびに、強くなれる。

 私、大丈夫だよ。
 新一------。



 「さすが蘭!もしかして今日はダメかも・・なんて思ったけど、なんのなんの。後半の勢い、すごかったよ!」
 「ありがと、園子」
 未だ興奮さめやらぬ・・といった感じで園子は喜んでいる。

 さんざん苦労した今日の試合。
 だけど不思議なくらい力がわいてきて、勝つことができた。
 新一のおかげ・・かな?

 思わずひとりで微笑みをこぼしていたら、そばで園子がため息をついた。
 「だけど・・。結局来られなかったんじゃない。まったく・・。蘭があんなに苦戦してたっていうのに」
 「いいのよ、そんなこと。新一は新一で、大変なんだから」
 「・・蘭。たまにはわがまま言いなよ?」
 「・・平気。それに・・」
 そこまで言って、ストップする。
 「?」
 それに・・ちゃんと、力をくれたから。
 それだけでいい・・。

 「・・・・・・っ!」
 携帯の着信音がなる。
 鼓動が弾んだ。
 隣の園子はいたずらっぽく笑って、
 「どーぞごゆっくり♪」
 なんていって、先を行ってしまった。
 「ちょっ・・園子っ」
 あーあ。行っちゃった・・。
 気、使わなくてもいいのに。
 でも。
 ありがとう。

 「お疲れさま」
 『・・・・・・!』
 私の言葉に、新一はちょっと面食らったようだった。
 怒ってる・・って。
 思っていたのかもしれない。
 『ほんとに、ごめん・・。思ってたより、ややこしくてさ。ちょっと・・時間かかりすぎた・・』
 「実は私も。結構圧されちゃって、ダメかも・・って、ちょっと思っちゃった」
 『なんだよ。らしくねーな』
 「・・そっちこそ」
 他愛もない会話が愛しくて、心のなかに、あたたかさが染み込んでくる。
 『・・でも・・』
 ・・・・・・?
 なんだろう。
 新一が少し、どもった。
 『どうしても解けない部分があって、必死に戦ってたら、・・・・・・聴こえたんだ』
 「え?」
 『オメーの声が、聴こえたんだ・・』

 あ------。

 電話越しに、新一が照れてるのがわかるような気がする。
 私の微笑みは、あなたのこころに届いていますか。

 「新一、私も------。」



 電話の向こうに、雑踏の声が聴こえる。
 離れているのに、こんなに近く感じられる。
 それは、
 とても不思議で、
 とても素敵なこと------。






FIN.

愛の力って偉大だなあ・・なんて思いながら書いてみました(*^_^*)タイトル、そのまんまですが・・(笑)。






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