ひとの心は移ろいやすく。
 この空の色も変わりやすい。

 教室の窓から見た空は、確かに青かったのに。
 
 突然降り出した雨に、わたしは途方にくれた。
 運悪く、今日に限って、いつもきちんと入れているはずの折り畳みを忘れてきてしまった。

 適当な軒下を見つけて、静かに音を立てて降り続ける春の雨を眺めていた。
 雨に緑が濡れて、より濃い色をなしている。

 もう、ゴールデンウィーク。
 こころにほんの少しの、隙間風。

 ゴールデンウィーク。
 いつも、素直になれなくて。
 だけど、いろいろな理由をあげてみては、アイツの部屋を掃除したり。
 ご飯を作ったり。

 …プレゼントを、渡したり。

 そう。ゴールデンウィークは。
 
 しんいちの。

 バースデイ、なのに。

 きっと…
 今年は、逢えない。

 唐突に訪れた、日常にぽっかりあいた穴は、どうがんばっても埋まらない。
 涙は雨のようには、うまくは流れない。

 突然の雨に、わたしのほかにも傘を持ち合わせておらず、けれど強行突破して、パシャパシャと音を響かせながら急ぎ足で去っていく人もいる。
 傘を分け合っているひとも。

 ぼんやりと、少し遠い日を思い返していた。

 「大丈夫だって」
 そんなことを言っては傘を忘れて。
 だけど、同じ一つの傘で帰ることができるのは、ほんとうは、少し恥ずかしくて。
 とても、嬉しかったのに。
 だけどそれさえも、うまくは伝えられない。

 ホームズの話ばかりするから。なんて。
 「天気の推理はできないのねっ」
 なんて口走っては、後悔する。

 ねえ。
 もしもまた…。
 同じ傘で帰ることができる、そんな日がきたら。
 嬉しいよって、ちゃんといいたいよ。
 

 止む気配のない雨に、ただ思いをはせて、どうしても思い浮かぶのは、ひとりだけで。
 
 もう少しだけ、こうしていたくて、瞳を伏せた。



 「―――蘭姉ちゃん…!」

 はっとして、我に返った。

 なぜだろう。
 あたたかくて。
 それでいて、胸がきゅっとなるようなこの気持ち。
 
 「コナンくん…」

 その小さなからだで、精一杯背伸びをして、傘をわたしに向かって掲げている。
 だけどどうしてもそれは、わたしまでは届かなくて。

 それがなぜか…この胸を切なくさせた。

 「ありがと。入れてくれるかな…?」
 そういって、わたしは目線が同じになるようにかがんで、コナンくんの差しかけてくれた傘に身を寄せてみる。
 びっくりしたように、コナンくんは目を丸くして、まじまじとわたしを見つめていた。
 「ほんとうにありがとう。
 …嬉しい」

 止まない雨が、 どこか涙に似ている。
 そんなふうにさえ感じていたのに、今はその音もやさしい。

 照れたように、コナンくんは少し距離をとって、並んで歩いている。
 「コナンくん。そんなに離れたら、濡れちゃうよ?」
 何度かそういっても、
 「だ、大丈夫だよ」
 それだけを言って、終わってしまう。

 「風邪引いたら大変」
 きゅっとちいさな左手を握って引き寄せた。
 「ね。こうして歩いてたほうが、濡れないし、あたたかい感じがすると思わない?」
 
 「うん。…そうだね!」
 振り返って、コナンくんは笑ってくれた。

 雨はまだ止まないけれど。
 少し遠い日の思い出を胸に抱きながら。
 歩く道は冷たくはない。

 引き寄せてそっと握った手に、どこか懐かしいような。
 愛しいぬくもりを、感じながら――――――。






FIN.

コ蘭ですっ。
うわー、まじで1年(以上かも)ぶりです…。
甚だしくお目汚しごめんなさいです。
なんとなく、小さなからだで蘭ちゃんに傘をさしかけているコナンくんな図は萌えたり(笑)。
しかし、なんだかこれは、そのつもりではなかったのですが、「ちょっと気づいてる」くさいお話になってしまいました…(汗)。気づいてるかいないか、ぎりぎりの線で書いたりするのは面白いですが。
(05/02/2003)






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