幸せの花束 3. part3 With You





 なんとなく、今日はいい日じゃないな・・。
 そんなことを考えながら、青子はとぼとぼと廊下を歩いていた。
 今日は朝から快斗がなんとなく元気がないように見えた。
 もちろん、気のせいかもしれないけれど。
 おまけに今日は委員会が長引いた挙句、それが終わって帰ろうというときに、担任に引き止められた。
 今、青子は担任からお願いされたものを抱えて歩いている。
 
 もう、快斗、帰っちゃったよね・・。
 ぼんやりそんなことを考えながら、そっと教室をのぞくと、窓際の席に見覚えのある後姿が見えた。
 
 あれ?まだ、帰ってなかったの?

 今日は別に、一緒に帰る約束は特にしていなかった。



 その後姿は、ぼんやりと窓の外を眺めているように見える。
 どうしちゃったの・・・・・・?

 ”なんとなく”は、根拠もないのに、いちばん心臓に悪い予感だと思う。

 青子は抱えていたものをそっと机に置くと、静かに静かに、窓際の彼に近づいていく。

 快斗は勘がいいから、足音を忍ばせたところで、どうせ気配に気がついてしまうに違いない。
 そう思いながらも、慎重に、慎重に、近づいていく。

 快斗は振り向かない。
 気がついているけれど、気がついていない振りをしてくれているんだろうか?

 ギリギリのところで立ち止まって、
 思い切って行動に出た。



 「だーれだっ♪」
 「おわっっ!!」
 目隠しをしたら、予想に反した間抜けな声が返ってきた。
 
 あれ!?
 ほんとに気づいてなかったの!?
 
 快斗が気づいていなかったことに青子は驚いたけれど、そんなにまでいったい何を上の空になっていたのだろう・・。
 そう考えると、不安な気持ちが募った。

 「・・あんだよ、いきなり・・。びっくりするだろー?」
 軽く睨んでそういう快斗に、青子はごまかすように笑ってみせた。
 「えへへー、びっくりした?」

 「青子、委員会、終わったのか?」
 「あ、うん。でも、まだもうちょっと、帰れないけどね」
 「?」
 不思議そうに青子を見た快斗だったが、ふと、視線の先に例のものを捉える。
 「何だ?あそこに置いてんの・・」
 「ああ!あれ・・」
 そういいながら、青子はそれを抱えて戻ってきた。
 「委員会終わった後、たまたま先生に頼まれちゃったの。こないだ集めた今度の見学会のアンケートの集計・・」
 ちょっと情けなさそうに語尾が小さくなってしまう。
 そんな青子の言葉に、快斗は、はぁー・・とため息をついて、
 「ったく・・。断れねえやつだよな・・お前って」
 と苦笑して、ほら、といったふうに片手を差し出した。
 「なあに?」
 きょとんと見つめ返す青子に、快斗は少しあきれながら、
 「手伝ってやるんだよっ」
 とぶっきらぼうに言って、半分以上を引っ手繰るようにして奪ってしまった。
 「ありがと!」
 屈託なく笑う青子に、快斗はどんな顔をしたらよいのかわからなくなる。





 「青子、あと何枚だ?」
 「えっと・・。あと5枚かな?」
 そう言って、青子が顔をあげると、向かい合っている快斗は持て余したようにシャーペンを回していた。
 「あれ?もう終わっちゃったの?快斗はやーい!」
 まあな、と言ったように、ちょっと得意げな顔をして見せる快斗を、青子はもう一度、まじまじと見つめた。
 「な・・なんだよ?・・残り5枚も、オレがやれってか?」
 「もう・・!そんなんじゃ、ないってば」

 ふと、よぎる。
 ふたりとも、どうしたかな・・・・・・。
 大切な、秘密の約束を思い出す。
 
 
 なんとなく、気づいてる。
 知らないでいるほうが幸せだというのは、たぶんうそ・・・・・・。
 誰の間にもある、見えない壁。
 踏み込めない場所。
 そこまで。
 そこまでみせてなんて、言わないよ。
 でも・・。

 話したい時、話してほしい。
 ひとりじゃないこと、知ってほしい・・・・・・。

 そばにいるのだから。
 一緒に、居るのだから。

 その想いを、そっと伝えたい。

 「快斗・・」
 「・・ん?」
 ポロリとこぼれた名前に、敏感に反応する。
 「青子は・・そばにいるよ」
 いつにない静かな声音に、驚いたように瞳が見開かれる。
 「青子ね、何でだかわからないけど・・。快斗の心が泣きそうなときって、なんとなくわかるような気がするの」
 「青子・・・・・・」
 何度か、くちびるだけが動いて、言葉にならない。
 これ以上ないくらい緊張したまま、ありのままの気持ちを言葉にした。
 「そばにいるよ。かなしいときも。だって、青子、快斗のことが好きだから・・。快斗のそばにいたいから・・。そばにいるの、青子じゃ・・ダメ?」

 「ダメなわけねえだろ?サンキュ、青子。オレだって、青子のこと、ずっと好きなんだぜ?」

 「ほ・・ほんとに?」
 緊張の糸は、まだ解けない。

 そんな青子に、快斗はいたずらっぽく笑ってみせた。

 「・・やったぁ!」
 
 探していた宝物を見つけたように、青子が笑った。

 
 そばにいるよ。
 あなたが望むなら、いつでも。
 一緒に居よう。
 うれしいときも、かなしいときも------。






FIN.






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