素敵な偶然
教室のあちこちでひそひそと声がしていた。 けれどもみんな、視線を向けているのはある一点で------。 「・・おい。アイツら、何してんだ?」 「さあ・・?喧嘩でも始まるんじゃねえの?」 「そうかなあ・・?妙な火花は散ってるけど、そんな険悪には見えないわよ・・?」 みんなの視線を集めていたのは快斗と青子。 やたらと真剣な顔で向かい合っていた。 「心の準備はいい?快斗」 「ああ」 「変な小細工しちゃダメだよ?マジックなんか使ったら、承知しないんだから!」 「誰が、んなセコイまねするかよ」 「いい?」 「おう!」 「------せーのっ」 「・・・・・・!!」 歓喜の笑顔を浮かべる青子とは逆に、目を見張って固まる快斗。 「やったー!」 青子が両手を挙げる。 「うそだろ・・。一点差かよ〜・・」 快斗はがっくりと肩を落とした。 「快斗!約束どおり、今日帰りに何かおごってね!」 「・・わーったよ・・」 目を輝かせる青子に、快斗は力なく答えた。 事の起こりは一週間前。 試験が終わったあと、いたくご機嫌な青子は、今日のテストはうまくいったと胸をはっていた。 快斗は嬉しそうに笑っている青子をかわいいと思いつつも、いつものからかい癖で、 「へえ。ずいぶん自信満々じゃねえか?そうだ、オレより点数良かったら、なんかおごってもいいぜ?」 と口走ってしまった。 「ほんと!?」 「その代わり、俺のが良かったら、おごれよな?」 「うん!」 別に、青子に何かおごるのがいやなわけではない。 ただ、一点差で負けたというのが、彼にとってはかなり悔しいらしく・・・・・・。 一方、青子は快斗が予想以上にがっくりきているのが不思議だった。 そんな些細なことで、落ち込むたちではないはずなのに・・? それでも、考えることは大して深刻なことではなかった。 「快斗ってば、そんなにおごってほしかったの?だったら、青子が快斗のぶんおごってあげるよ?」 青子の言葉に快斗は苦笑いを浮かべた。 「それじゃ、意味ねえだろ・・」 帰り道。ふたりは会話しつつも、互いになんとなくそわそわしていた。 もっとも、快斗は表向き、そんなふうには見えなかったが。 帰り道にどこかによるなんて、ひょっとして、ひょっとしなくても、デートみたい・・。 青子は目に見えてそわそわしていた。 テストが終わった後は、軽い気持ちで受けただけだったけれど、よく考えてみると、これはまるで・・・・・・。 そう考えるだけで、なんとなく顔が火照ってきそうだった。 は・・早く、なにおごってもらうか、決めなくちゃ・・。 そう思った青子は、パッと顔をあげると、視線の先に見えたクレープのお店を指差した。 「青子、クレープ食べたい!」 ちょっとあせっていたのか、青子の声はやや大きく、そこでまた快斗は墓穴を掘った。 「でけー声だなー。ったく、子どもみてえにはしゃぐなよ」 デートのような気分を壊された青子は、瞳を潤ませて快斗をにらんだ。 ゲッ、な、泣く!? そう思った快斗が、大慌てで青子を慰めたことは、言うまでもない。 お店の前で、青子はどれを頼むか真剣に悩んでいた。 青子の機嫌がすっかり良くなったのが、果たして快斗の話術だったのか、ずらりと並ぶクレープだったのか、それは定かではない。 う〜ん・・と、うなるように迷っている青子を眺めながら、快斗はこの性格は何とかしなくては、と思いつつも、口が動いていた。 「さっさと決めろよ。早くしねーとおごってやらねえぞ?」 言ったすぐ後でひやりとしたが、青子は快斗の憎まれ口よりクレープに気を取られていて、 「う〜ん・・ごめん、もうちょっと〜」 と、普通の答えが返ってきた。 どうしても決まらない青子は、 「ごめんね、青子、まだ決まらないから、快斗、先に頼んでて」 と快斗を促した。 「そーか?じゃあオレは・・・」 快斗は少し考えて、目の前の店員に注文しようと口を開いた。 「生チョコレート・・っ」 瞬間、二重唱のように同じ言葉が重なった。 「あ・・あれ??」 思わず、二人は顔を見合わせた。 「生チョコレート、お二つですね」 店員は、くすっと微笑んでそういった。 それはとてもほほえましい光景だったから。 反対に、当人たちは、恥かしいような、嬉しいような、不思議な気持ちだった。 でも、本当はきっと嬉しかったのに違いない。 好きなものが似ているのは、なんだか嬉しい。 好きな人の、好きなものを、 いつのまにか自分も好きになっていたりする。 少しずつ、似てくるのは、 いつも、見つめてるせいかもしれないね。 好きなものが似ていることは、 ちょっと照れくさくて、 嬉しくて。 素敵で、不思議なこと・・・・・・。 FIN. |
なにやら今回は快斗くんが情けない役回りでしたね(汗)。快斗くんファンの方、ごめんなさい(><) もっとほんわかした感じになるはずが、妙に一部お笑いのようなお話に・・・。 |